映画監督、宮崎駿の著書、『本へのとびら ─岩波少年文庫を語る』(岩波新書)を読んだ。巻頭には、監督自身が選んだ岩波少年文庫50冊についての短い紹介文が、本の写真とともに掲載されている。
数々の優れたアニメーションを生み出してきた、監督の映像を思い浮かべながら、その創造の源泉には、これらの児童文学の世界が基盤となっていることに気づかされる。
印象に残った文章がある。
「…要するに児童文学というのは、「どうにもならない、これが人間という存在だ」という、人間の存在に対する厳格で批判的な文学とはちがって、「生まれてきてよかったんだ」というものなんです。生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生まれた基本的なきっかけだと思います…」
生、という輝きの深い肯定を子供たちの心に届ける。
物語の背後に、生きる喜びがみなぎる。
ああ、確かに、子供のころ読んだ物語は、どこか懐かしく、あたたかく、未知への冒険心をくすぐり、大地性に満ちたおおらかさがあったことを思い起こす。
「3月11日のあとに」という最後の章には、震災前後の日本の在り方に触れていて、考えさせられる。「大量消費文明の終わりの第一段階に入った」との言説も深く頷かざるを得ない。
今、この時代に、ファンタジーをつくれない、という宮崎駿監督がこれからどんな映画を切り開いていくのか。
これからの未来を生きる子供たちに届ける、「生まれてきてよかった」と思える映画や文学をどう産み出していったら良いのか。
私自身の課題としても、何度も再読したい一冊である。