グリム童話集の「ラプンツェル」。(岩波少年文庫)
恵まれない夫婦に授かった一人娘、ラプンツェルは、母の胎内にいるとき、魔女の庭のラプンツェル(サラダ菜)を食べたことから、生まれた瞬間、魔女にさらわれ塔の上に幽閉された。
美しい娘に育ったラプンツェルは、金の糸をつむいだような、美しい髪を持っており、魔女がこう叫ぶと、その髪を塔の窓から垂らす。
「ラプンツェルや、ラプンツェル、さぁ、髪をたらしておくれ」
その髪をたよりに、塔の上へと昇る魔女。
ある日、ある国の王子が、優しい声で歌うラプンツェルのとりこになり、魔女が声をかけて、ラプンツェルの髪をたよりによじ登っていく様子を見て、同じようにラプンツェルに声をかけた。
「ラプンツェルや、ラプンツェル、さぁ、髪をたらしておくれ」
その髪をたよりによじのぼり、王子ははじめてラプンツェルに会う。ラプンツェルは驚くがすぐに好きになり毎日幸せな時間を過ごした。
ところが、ある日、ラプンツェルは、魔女に、こう言ってしまうのだ。
「おばあさんは、王子さまと違って、ほんとうに重たいわ」
魔女は、怒り、ラプンツェルの髪を切ってしまう。
何も知らない王子が、また塔の上へあがっていくと、魔女は、ラプンツェルにはもう二度と会えないと言う。王子は絶望のあまり、塔から飛び降り、目が見えなくなってしまう。
王子は、森をさまよい、ラプンツェルは、荒れ野をさまよった。
しばらくの時が過ぎて、王子は、ラプンツェルのいる荒れ野にたどりつく。そして、王子は、ラプンツェルの声を聞いて、聞き覚えのある声だと思い、その声の方へ歩いていく。
ラプンツェルと王子は、再び、巡り合う。喜びの涙が王子の目に落ちると、王子の目は見えるようになり、王子の国へ帰り、しあわせにくらす。
童話の中に、二人の会話は、ない。どんな話をしたのだろう。お互いの声の記憶が残るほどに。
声が結んだ愛は、魔女にも引裂けないのだ。
小さなページの隅に、声の力を感じた。