山崎佳代子『みをはやみ』
ベオグラードに住む詩人、山崎佳代子の『みをはやみ』(書肆山田)を読んだ。
柔らかなことばの優しい語り口の背後に、流血の土地を見つめてきた、まなざしの強さがある。
1編1編の作品の根底に深い祈りの声が響く。
声高ではない、澄んだ声。
歴史に翻弄される、人間の痛みは一体いつまで続くのか。
水脈速み
霧深い山の森から
樹木を切り出し
男たちは舟を作った
果てしない水を軽やかに渡り
高い波にも消えぬ
舟を男たちは
作った
この水のむこうに
あらそいのない世界はないか
諍いのない
国は無い
のか
小さくてもいい
貧しくてもいい
遠くてもいい
草が
草となり
花は花となり
人がふたたび人となる
国はないのか
国はどこかに
無いのか
─以下略─
草も、花も、人も、みなかけがえのない命。生命が、生き生きと尊厳を守られる世界を心から望む。
土地の風と光と血を目の前に、詩人はひるむことなく、言葉を置く。
ページという名の自由な土地で、訪れる平和を願う。
ことば、ひとつひとつが、槍のように心に突き刺さる。
あらそいや、諍いは、遠い国の問題ではない。
今ここにいるわたしたちの問題なのだ。
近隣の国でも火柱が立った。
一人、一人、自らの心へ問いかけねばならない。
あらそいや諍いが何を生み出すのか。
生み出す物など何もない。
奪うだけだ。
希望を、夢を、子どもたちの輝くひとみを。
« こどもを育む豊かなことばを | トップページ | 1年の終わりに »
「詩の話」カテゴリの記事
- 現代詩手帖9月号に、現代詩文庫『山口眞理子詩集』(思潮社)によせて、「詩の光、秋に吹く風」と題して、書評を書いています。(2017.08.27)
- 池田康さん編集・発行の「虚の筏」19号に、詩作品「星降る夜には」を発表しました。(2017.07.14)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」20号に多田智満子論「レモン色の車輪に乗る、薔薇の人」を寄稿(2017.07.04)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」19号へ、小熊秀雄「火星からやって来た男」寄稿。(2017.02.23)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」18号に金子光晴論「若葉とおっとせい」を発表(2016.08.01)