ルバーイヤート
季節は、夏から秋へ凋落し、日が短くなり、心細い夕べがやってくる。
十一、十二世紀のペルシアに生きた詩人ハイヤームのルバーイヤートのことばが舞い落ちてくる。
来て去るだけの一生になんの益がある。
この世を織りなす縦糸と横糸の交わりはどこにある。
われわれは罪もなくこの世につながれ、
そして燃やされて灰になる、その煙はいずこ。
ああ、無益に疲れはててしまったことよ。
天空にきらめく大鎌がわれらを刈りとる。
ああ、苦しや、無惨なこと! 瞬きする間に、
われらは望みも叶わず、消えていく!
『ルバイヤート』(オマル・ハイヤーム著 岡田恵美子編訳、平凡社ライブラリー)
生の実感というものは、「儚い」。これこそ真実ではないだろうか。
どれだけ、ポジティヴに生きようと、生は一瞬の幻。世の中の不穏な空気や生きることの謎を追及せざるおえない、私たちに、情報はあらゆる方法で糸口を与える。多くのマニュアル本や、スピリチュアル本、魂の目的を、引き寄せの法則を…。
見えない世界にも多くの答えがあるだろう。けれど、生きることの厳しさ、苦しみの深まりの先にこそ、本当の喜びが見えてくる。リアルな日常を掬いあげることばにこそ、真実が隠されている。
日本という島国に生きる。内戦や亡命を経験しない今、こころの荒廃が進んでいるように思える。
疲れ果てる、生。ああ、確かに。だがしかし、一回限りの、まばゆいばかりの、命。これも確かな真実。
ひとりひとりの意識の中で、何かを、摑みとるしかないのだ。
暗闇に惑い、倒れそうになっても、「ことば」があるということ。それは、私の救いだ。多くの命が、「来て、去る」。ただそれだけのこと。
ただそれだけだ、ということを、同じように考えた人間がいる。
詩が永遠に生き続けるのは、やはり、人間にとっての「光」だからだ。
ことばを知りたいと思う。深い愛を感じたいと思う。
どれだけ、感じることができるだろうか。
儚さの上にある、今ここにあることの、喜びを!
« 民主党代表選の裏側で | トップページ | 詩の回路 »
「詩の話」カテゴリの記事
- 現代詩手帖9月号に、現代詩文庫『山口眞理子詩集』(思潮社)によせて、「詩の光、秋に吹く風」と題して、書評を書いています。(2017.08.27)
- 池田康さん編集・発行の「虚の筏」19号に、詩作品「星降る夜には」を発表しました。(2017.07.14)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」20号に多田智満子論「レモン色の車輪に乗る、薔薇の人」を寄稿(2017.07.04)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」19号へ、小熊秀雄「火星からやって来た男」寄稿。(2017.02.23)
- 池田康さん、編集、発行の詩誌、詩と音楽のための「洪水」18号に金子光晴論「若葉とおっとせい」を発表(2016.08.01)