銀の舞台
銀色のスケートリンクの清々しさ。久しぶりにスケートを楽しんだ。
子供のころ、冬のスポーツといえば、スケートだった。野外スケート場には頻繁に足を運んだ。母が編んでくれた毛糸のケープや帽子をかぶって、丸く、くりぬかれた青空を、とおく眺めた。冷たい空気が頬をかすめるが、体は内側からほんのり温まり、飽きもせずに、くるくるとリンクを回り、風と対話した。ともだちとも、連れだってよく通った。手をつないで滑走しては、しりもちをついて笑った日々。甘いココアが、柔らかな幼年の記憶をやさしく包みこんでいる。
しばらく履いていなかったスケート靴も、一度リンクに立てば、自然に足が滑りだすものだ。子供のころ、体で覚えた感覚は、細胞にしみ込んでいて、簡単には忘れない。
リンクの中心では、フィギュアスケートの練習をする妖精のような女の子たちが、ジャンプやステップの練習をしていた。華やかな舞台の陰に、静かな試みの時があるのだな、とまぶしく眺めた。
それにしても、製氷され、きれいになったリンクに足を踏み込む瞬間のさわやかさは本当に、心躍る。
まるで、日々、少しずつたまってしまう心の澱が美しく拭われ、生きる呼吸が、すっと楽になるかのような。
一新されたリンク。晴れやかなぴかぴかの氷の美しさ。心の鏡はいつも、磨いていなくては。そんなメッセージが伝わってきた。
重くなったスケート靴を脱いで、外へでると、まぶしい青空がたかい。まろやかな日差しが、肩にゆっくりと落ちてきた。
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